奈良市の小学校でいじめを受けた女子児童が、「わたしは死ねばいいのに」と書いたノートに担任が花丸をつけた問題。
女子児童と両親が奈良市に損害賠償を求めた裁判で、奈良地裁は請求を棄却しました。
なぜ学校側の対応は違法とされなかったのか、判決理由と学校の対応を整理します。
「死ねばいいのに」ノートに花丸でも請求棄却はなぜ?
奈良地裁が請求を棄却したのは、担任がノートに花丸をつけた対応を適切と判断したからではありません。
担任らが女子児童から話を聞き、関係する児童への聞き取りや謝罪など一定の対応を取っていたことから、奈良市に賠償責任を負わせるほどの法的義務違反までは認められないと判断したためです。
裁判所は、学校側の対応について次の点を評価しました。
- 関係する児童への聞き取り調査を行っていた
- 児童同士が関係を修復する機会を設けていた
- 女子児童をばかにしたとされる児童に謝罪させていた
- 担任がノートを確認した後に女子児童と話していた
- 女子児童の不安を取り除くための具体的な対応を取っていた
管理職への情報共有がすぐに行われていなかった点は認めながらも、裁判所は「いじめ発生の回避義務は尽くしていた」と評価しています。
つまり、今回の判決は「学校の対応に問題がなかった」という意味ではありません。
学校の対応に教育上の不適切さがあったとしても、損害賠償を命じるために必要な法的な違法性までは認められなかったということです。
ノートに花丸が違法とされなかった理由
女子児童は2022年6月、担任に提出したノートに次のような言葉を書いていました。
- 「自分なんていなければよかった」
- 「わたしは死ねばいいのに」
これに対し、担任は大きな花丸をつけ、「You can do it!!」と書いて返却しました。
言葉だけを見れば、児童が死をほのめかしている部分を励ましているようにも受け取られかねません。
裁判所も、花丸やコメントについて、女子児童の希死念慮を促す趣旨に理解される可能性があると指摘しました。
それでも違法行為と認定しなかったのは、担任がノートを見た後に女子児童と話し、深刻な希死念慮まではないと判断していたためです。
その後には、女子児童をばかにしたとされる児童に謝罪させるなど、不安を解消するための対応も取られていました。
こうした経緯から、裁判所は花丸をつけた行為について、女子児童が助けを求めた行動を積極的に踏みにじった違法行為とは認めませんでした。
担任はなぜ花丸をつけた?
裁判では、担任が花丸をつけた経緯についても双方の主張が食い違っています。
担任側は、女子児童から花丸をつけてほしいと頼まれたと説明しました。
一方、女子児童は花丸を頼んでいないと否定しています。
担任には励ます意図があったとみられますが、「死ねばいいのに」と書かれた文章に対する反応として適切だったのか、疑問が残る対応となりました。
奈良市教育委員会は学校の対応を不適切と認定
奈良市教育委員会の調査結果と、今回の裁判所の判断には大きな違いがあります。
調査報告書では、2021年から2022年にかけて女子児童が受けた次のような行為を含む12件を、いじめと認定しました。
- 同級生から足を蹴られる
- 手をひねられる
- 突き飛ばされる
- 鉛筆で背中を突かれる
さらに、担任がノートに花丸をつけたことや、書かれていた内容を保護者や校長に共有しなかった対応も不適切だったと指摘しています。
学校側についても、組織的な対応ができていなかったことは明らかだと評価されました。
市教育委員会は学校の対応を不適切と判断した一方、裁判所は賠償責任を認めるほどの法的義務違反ではないと判断したことになります。
この違いが、判決に納得できないという声につながっているのでしょう。
学校が重大事態として調査するまで約9カ月
女子児童の両親は、2022年2月に娘が同級生から蹴られてけがをしたとして、学校側に調査を求めていました。
しかし、相手児童が蹴ったことを否定したことなどから、詳しい調査は行われなかったとされています。
学校側がいじめ防止対策推進法に基づく重大事態として調査を始めたのは、両親が訴えてから約9カ月後でした。
その間にもいじめは続き、女子児童は適応障害と診断されています。
問題となったノートが提出されたのも、この約9カ月の途中でした。
早い段階でいじめを認知し、担任だけでなく管理職や保護者を交えて対応していれば、女子児童がここまで追い詰められることはなかったのではないか。
今回の判決を見た多くの人が感じているのは、花丸だけでなく、その前後を含めた学校の初動対応への疑問です。
女子児童と両親は奈良市に約250万円を請求
女子児童と両親は2024年、学校の対応がいじめの早期発見や組織的対応を定めた法律に沿っていなかったなどとして、奈良市に約250万円の損害賠償を求めました。
児童側は、花丸をつけた対応についても、児童の心理に最大限注意を払った慎重な対応が必要だったと主張しています。
女子児童はその後も通常どおり登校することが難しい状態が続いているとされ、家族は学校組織の改善も求めていました。
しかし、奈良地裁は2026年7月16日、教員らに職務上の法的義務に違反する行為があったとは認められないとして、児童側の請求を棄却しました。
なぜ判決に納得できないとの声が広がっている?
今回の判決をめぐっては、ニュースのコメント欄やSNSで疑問の声が相次いでいます。
多くの人が引っかかっているのは、次のような点です。
- 12件のいじめが認定されている
- 児童が死をほのめかす言葉を書いている
- ノートの内容が管理職や保護者に共有されなかった
- 重大事態としての調査開始まで約9カ月かかっている
- 市教育委員会も学校の対応を不適切と認定している
- それでも裁判では法的義務違反が認められなかった
裁判所は、教員が行った聞き取りや謝罪など、一つ一つの対応を基に法的責任を判断しました。
一方で世間は、最初にいじめを訴えてから女子児童が追い詰められていった流れ全体を見ています。
一定の対応を取っていたとしても、その対応で児童を守ることができていたのか。
請求棄却という結論だけでは納得できないとの声が広がるのも、無理のない反応といえそうです。
まとめ
奈良市の小学校いじめをめぐる裁判で、請求が棄却された理由をまとめました。
- 女子児童は「わたしは死ねばいいのに」とノートに書いていた
- 担任はノートに花丸と「You can do it!!」を書いて返却した
- 裁判所は聞き取りや謝罪など一定の対応が取られていたと評価した
- 奈良市に賠償責任を負わせるほどの法的義務違反は認められなかった
- 市教育委員会は12件をいじめと認定している
- 花丸や管理職への情報共有不足は不適切と指摘されていた
- 学校が重大事態として調査を始めるまで約9カ月かかっていた
今回の請求棄却は、花丸をつけた対応や学校の初動が正しかったと認めた判決ではありません。
裁判で問われた法的な違法性と、子どものSOSに学校がどう向き合うべきだったのかは、同じように見えて判断基準が異なります。
それでも、「最初にもっと真剣に向き合っていれば」と感じる人が多いからこそ、判決への疑問がこれほど大きく広がっているのでしょう。


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