「夜中のサイレン、うるさすぎるんだけど…」
SNSや自治体への苦情窓口に、こうした声が寄せられることが増えてきました。
確かに、静かな夜に響くサイレンの音は時に不快に感じるかもしれません。
ですが、元救急隊員として私が伝えたいのは、そのサイレンの裏には『命を救おうとする必死の活動』があるということ。
そして、「うるさい」と感じられる背景には、今の社会の変化や法律的な要件も深く関係しているのです。
苦情が増えたのは“時代の変化”と“意識の変化”
ひと昔前までは、「救急車のサイレンは当たり前」「迷惑だなんて思わない」という空気がありました。
しかし今は、“自分の生活の静けさや快適さ”を守ろうとする権利意識の高まりが背景にあります。
- 騒音対策や静音家電が当たり前の時代
- SNSですぐに「迷惑」「不快」と声を上げられる社会
- 個人の権利を尊重する風潮
これらは決して悪いことではありませんが、『命の音』まで“うるさい”と感じてしまう感覚は、どこか寂しくも感じます。
救急要請が増えているという現実
救急車の出動件数は、年々右肩上がりで増えています。
その背景には以下のような変化があります。
- 高齢化の進行と、ひとり暮らし高齢者の増加
- 「迷ったら救急車を呼ぶ」という意識の浸透
- 以前に比べて“気軽に呼べる”と考える人が増加
結果として、サイレンが鳴る回数そのものが増えているのです。
それは裏を返せば、『命を救う音』が私たちの暮らしに近くなってきたということでもあります。
サイレンを止めたくても止められない理由
「音が鳴りっぱなしでうるさい!」
そんな声も多いですが、実はサイレンを長時間鳴らし続けなければならない事情があるのです。
- 一般車両が増え、都市部では慢性的な渋滞
- 道が狭く、進路を譲ってもらえないケースも多発
- サイレンを止めたら、他の車が気づかず危険な接触事故のリスクも
さらに、ここに法律上の理由も加わります。
緊急車両は「サイレンを鳴らさないと緊急車両として扱われない」
日本の道路交通法では、緊急車両(救急車や消防車、パトカーなど)が『信号無視』や『速度超過』などの交通ルールを一部免除されるためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があるとされています。
- 赤色灯を点灯していること
- サイレンを吹鳴していること
- 緊急業務中であること
この3点がそろっていなければ、たとえ緊急事態でも、一般車両と同じ交通ルールが適用されてしまいます。
つまり、
- サイレンを止めた瞬間、赤信号では止まらなければいけない
- 他の車両に道を譲ってもらう法的根拠がなくなる
ということになります。
「うるさいから止めて」という要望に応えることは、救急活動を不可能にすることに直結してしまうのです。
命を守る音と、快適さのバランスをどう取るか
サイレンは“命を救う音”です。
それが“うるさい騒音”と捉えられてしまう時代に、私たちは何を考えるべきでしょうか。
もちろん、快適に暮らしたいという思いは大切です。
でも同時に、「今まさに助けを求めている人がいるかもしれない」という視点も持ってほしいのです。
また、「サイレンを鳴らさないようにする」のではなく、
- 救急車がスムーズに通れる道路環境づくり
- 適正な救急要請の啓発
- 静音技術の進化への投資
といった社会全体で命を守る仕組みをつくっていくことが、本質的な解決策だと私は思います。
【まとめ】
救急車のサイレンが「うるさすぎる」と感じるようになったのは、単なる音量の問題ではありません。
時代の価値観の変化、住民の意識の変化、社会構造の変化、そして法律上の要件が複雑に絡み合った結果なのです。
それでも、サイレンは誰かの命をつなぐ大切な音です。
どうか、その音の意味をもう一度だけ立ち止まって考えていただけたらと思います。
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