私は元救急隊員として、数多くの高齢者施設からの救急要請に対応してきました。
その中では、命の重みに真摯に向き合う職員の姿に心を打たれることもありましたし、反対に「人としてどうかしている」と言いたくなるような場面に出くわすこともありました。
今回は、私が隊長として出場した現場の中で今でも記憶に強く残っている、ある出来事についてお話ししたいと思います。
■ 忘れられない、ある夜の老人ホームでの出来事
それは、ある老人ホームから「入居者が心肺停止(CPA)状態」という通報を受けて出場した事案でした。
私たちはいつも以上に緊張感を持って現場に急行しました。
現場に到着すると、ベッドの上には心肺停止状態の高齢者の方が仰向けに横たわっており、施設の職員が心臓マッサージを実施していました。
すぐに私たちは引き継ぎ、心肺蘇生を行いながら搬送の準備に取りかかりました。
一刻を争う状況です。
私たちは一秒でも早く病院へ搬送するため、必死に動いていました。
しかしその時、私の耳に飛び込んできたのはすぐ近くで談笑する職員たちの『笑い声』でした。
■ 「緊急事態の横で談笑する姿」に感じた違和感
もちろん、施設の現場も非常に過酷で一日を通して張り詰めた緊張が続く中、ほんの一瞬の気の緩みや心の逃げ場が必要なのかもしれません。
それでも、命をつなごうとしている私たちのすぐ横で交わされていた『笑い声』には、強い違和感を覚えました。
あの入居者が、どんな人生を歩んできたのかは分かりません。
けれど、あの方は『施設での最期の時間』を迎えていたのです。
その場の空気を、笑い声が一気に壊していきました。
命と向き合っている緊迫した空間で、あの無神経な笑顔と声が今でも忘れられません。
■ すべての職員がそうだとは思っていません
誤解のないように伝えたいのは、すべての施設職員がこのような態度だとは決して思っていないということです。
むしろ、日々厳しい勤務環境の中でも真摯に入居者と向き合い、誠実に働いている方の方が圧倒的に多いことも知っています。
私がこれまで出場した数多くの現場では、職員の方々の懸命な対応に助けられたことも、感動したこともたくさんありました。
だからこそ、『あの場違いな笑い声』が強く心に残ってしまったのです。
施設の中に命の重みを感じられない意識の低い職員がいるということは、真面目に働いている方々にとっても大きな損失だと思うのです。
■ 高齢者施設は「命の現場」であるという自覚を
高齢者施設というのは、他のどんな場所よりも『死』と隣り合わせにある現場です。
心肺停止、意識障害、呼吸困難――そういった事態が、いつ起きてもおかしくない環境です。
だからこそ、そこで働く職員には命と向き合う覚悟と緊張感が求められると思っています。
その覚悟がない人が現場にいることは、利用者にとっても職員にとっても施設全体にとっても大きなリスクです。
■ 最後に伝えたいこと
私はすでに救急隊員ではありません。
けれど、あの日の光景は今でも私の中で色褪せることなく残っています。
『誰もが忙しい』『現場は人手不足』――それも理解しています。
それでも、命と向き合う現場で無神経な態度をとることだけは許されない。
これは、誰かを責めたいのではなく命を扱う現場にいる人に改めて自分の立ち位置を見つめてほしいという思いからです。
あなたは本当に、“命”と向き合っていますか?
私が見たあの光景が、二度と繰り返されないことを願っています。
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