救急現場で、傷病者やご家族に「持病はありますか?」と尋ねると――
返ってくるのは、決まってこうした言葉です。
「特にありません」
「病気なんてしたことないよ」
でも、その言葉を鵜呑みにしてはいけない。
お薬手帳を開いて初めて見えてくる“本当の病歴”があるのです。
私たち救急隊は、限られた時間の中でいかに正確な情報を引き出すかが問われます。
その鍵となるのが、“問い方”の工夫です。
今回は、元救急隊員として現場で学んだ『聞き出しの技術』について、実例を交えながらお話しします。
🔍「持病はありません」と言われたときの違和感
救急現場では、迅速な判断のために「既往歴(これまでにかかった病気)」を尋ねます。
ところが、多くの傷病者やご家族はこう答えます。
- 「特にありません」
- 「病気なんてないよ」
しかし、実際にお薬手帳を見せてもらうと――
- 高血圧の薬を服用している
- 抗うつ剤や抗精神病薬の記録がある
- 脳梗塞や心臓病を示唆する処方内容がある
こうしたケースは決して珍しくなく、傷病者自身が“自覚していない持病”を抱えていることがあるのです。
🧠 精神疾患と「病気の自覚がない」難しさ
特に注意が必要なのが、精神疾患を抱える傷病者です。
本人に病識がなく、「自分は病気じゃない」と思っている場合、こんなやりとりになります。
救急隊:「持病はありますか?」
傷病者:「ないです」
しかし、会話を進めると――
- 「夜眠れないから薬を飲んでる」
- 「たまに診療所に行って話を聞いてもらってるだけ」
といった重要なヒントがポロリと出てくることがあります。
そこから通院歴や服薬状況を把握し、精神科的な介入が必要かを判断していきます。
👴 高齢者は「病名」より「薬や病院」で探る
高齢の傷病者の場合、自分が何の薬を飲んでいるか分からない人も多く、
- 「薬はあるけど、病気かどうかは知らない」
- 「健康のために飲んでるだけ」
という答えが返ってくることもしばしばです。
こうした場面では、ストレートな質問では情報を引き出すことが難しいため、我々救急隊はこんなふうに問い方を変えていました。
🔍 聞き方の工夫で見えてくる情報
- 「飲んでいるお薬はありますか?」
- 「通院されている病院はありますか?」
- 「お薬手帳を見せていただけますか?」
こうした間接的な聞き方が、重大な既往歴を引き出すカギになるのです。
💊記憶を呼び起こす“もうひとつのカルテ”=お薬手帳
お薬手帳は、単なる服薬記録ではありません。
傷病者の記憶を呼び起こす“会話のきっかけ”になる大切なツールです。
たとえば、こんなやりとり。
救急隊:「血液をサラサラにするお薬が出ていますが、何かご病気をされたことはありますか?」
傷病者:「ああ、それはね、前に軽い脳梗塞になってね。それで先生がずっと飲んだほうがいいって」
このように、お薬手帳から得られる情報は非常に多く、命をつなぐ手がかりにもなり得るのです。
🎯 まとめ:「問い方」が命を救う現場の知恵
救急隊にとって、現場でのヒアリングは単なる確認作業ではありません。
それは、病院との間にある“命のバトン”をつなぐ重要な一手です。
🔑 聞き出しのポイント
- ストレートに聞かない
- 否定されたら別の角度から探る
- お薬手帳を活用する
- 会話の中にある「ヒント」を拾う
特に精神疾患や高齢者の傷病者には、言葉の奥にある情報を見抜く『現場の嗅覚』が求められます。
それは、教科書には載っていないけれど、確かに存在する『聞き出しの技術』なのです。
この記事が、現場でのコミュニケーションに悩む救急隊員の参考になれば幸いです。
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