緊急車両と聞くと、多くの人が「とにかくスピードを出して現場に向かう車両」というイメージを持っているのではないでしょうか。
確かに、赤色灯を回し、サイレンを鳴らして走る姿からは「急げ!」という印象を受けるでしょう。
しかし、救急車だけは、その常識に当てはまらない場面が多くあります。
実際、救急車は常に『最速』を目指しているわけではありません。
傷病者の命と状態にとって“何が最も良いか”を考えたうえで、『最善』の判断をしているのです。
今回は、私の元救急隊員としての経験をもとに、救急車が『速さ』ではなく『最善』を選ぶ理由をお伝えします。
救急車と他の緊急車両は目的が違う
消防車やパトカーなどの緊急車両は、これから起こる危険や事件の現場へ急行する車両です。
現場への“到着の速さ”が、被害を最小限に食い止めるカギになるため、スピードが求められるのは当然といえます。
一方で救急車は、すでに医療的介入が必要な傷病者を搬送中であることがほとんど。
つまり、『命を乗せて走っている』わけです。
そのため、スピードよりも傷病者の安全性や容態に配慮した運転が求められるのです。
『速さ』より『揺れ』が問題になるケースも
救急車内では、バイタルの観察や処置、酸素投与、点滴管理などが行われています。
その中で最も重要なのは、傷病者の容態を悪化させずに病院へ届けることです。
私が救急隊として活動していた中で、特に神経を使ったのは『くも膜下出血が疑われる傷病者』でした。
この病態は、わずかな刺激や振動でも容態が急変するリスクが非常に高い一方で、早期搬送が予後に大きく関わるという、スピードと慎重さを同時に求められる難しいケースです。
実際、私自身の経験として、搬送中に「そこまで激しい運転をしたつもりはなかった」にもかかわらず、揺れによって傷病者が嘔吐し、それをきっかけに容態が急変したことがありました。
その経験を通じて、私は『揺れ』や『加減速』といった要素が、時に命に関わる影響を与えることがあると痛感しました。
それ以降、たとえ急いでいる場面でも、『速度より安定性を優先する』という判断を迷いなく選ぶようになりました。
こういった背景から、救急車は速さだけを追求することが正解ではないと実感しています。
『遅い』と感じるその裏で、最善の選択がされている
後方から来た救急車が「思ったより遅い」と感じることがあるかもしれません。
でもそれは、その傷病者にとって必要な走行をしている結果である可能性が高いのです。
救急車は、『一般道を爆走するための車』ではありません。
命を確実に、安定した状態で病院に届けるために、そのときその場面で最も適切なスピードとルートを選んでいるのです。
救急車の運転は“自己満足”では済まされない
私自身、救急機関員(運転手)として活動していたとき、どれだけ速く走れたかではなく、「どう走れば傷病者にとって一番安全か」を常に考えていました。
スピードを出すのは簡単です。
でも、それが『傷病者のため』になっていないと意味がありません。
プロとして“自己満足の運転”ではなく、“命のための判断”をすることが求められます。
まとめ:最速よりも、命にとっての『最善』を届ける
救急車が常にスピードを出して走っているわけではないのには、明確な理由があります。
それは、『命を運ぶ責任を背負っているから』です。
スピードよりも大切なのは、その命にとって一番安全で、一番負担の少ない搬送方法を選ぶこと。
それが、救急車が『最善』を選ぶ理由です。
次に救急車を見かけたとき、「ゆっくり走ってるな」と思ったら、その裏には“命を守るための判断”があることを、少しだけ思い出していただけたら嬉しいです。
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