「えっ、救急車って有料になるの!?そんなの聞いたことない!」
そう思われた方も多いかもしれません。
確かに、日本ではこれまで救急車を呼んでも一切お金はかからないのが当たり前でした。
これは、「すべての人が、いつでも命を守られるべき」という医療制度の理念に基づいています。
しかし、ここ数年で“救急車の有料化”が現実味を帯びてきているのをご存じでしょうか?
この記事では、元救急隊員である私が、有料化の背景や全国の動き、そして実際に制度が始まっている地域の実例までをわかりやすく解説していきます。
■ なぜ今、救急車の有料化が議論されているのか?〜3つの理由〜
救急車の有料化が検討されている主な理由は以下の3つです。
- 救急車の利用件数が増加し続けている
- 軽症や緊急性の低い出動が多い
- 限られた救急資源が、本当に必要な人に届かないリスク
例えばこんなケース…
- 夜間に「37度台の発熱」で救急要請
- 翌日に自己受診でも支障がない症状
- タクシー代わりの利用
- 深夜で病院が空いている時間を狙った利用
こうした本来、緊急性がない状況でも出動せざるを得ないことで、本当に命の危機にある人への対応が遅れるケースが増えているのです。
■ 数字で見る“救急車の今” 〜過去最多の出動件数〜
総務省消防庁によると、令和5年(2023年)の救急出動件数は約726万件。
これは過去最多を記録し、1日あたり約2万件の出動があった計算になります。
そして驚くべきは、搬送された人の約半数が『軽症』と診断されているということ。
つまり、『本当に救急車が必要なケース』以外にも多数の要請があり、現場が逼迫している現状が数字から見て取れるのです。
■もう始まっている…救急車“有料化”の現実とその仕組み
2025年6月時点で、全国的な法改正による一律の有料化は行われていません。
しかし、すでに一部自治体では“実質的な有料化”が始まっています。
その代表例が、三重県松阪市です。
■【注目の先行事例】三重県松阪市の「7700円制度」とは?
松阪市では、2024年6月より救急外来の“選定療養費”として7700円(税込)を徴収する制度が始まりました。
◆ 制度の概要
- 救急搬送後に「入院が不要」と判断された場合
- 紹介状なしで救急外来を受診した人
- 上記に該当する場合、7700円の費用負担
これは「選定療養費」と呼ばれ、本来は紹介状なしに大病院を受診した際などに発生する費用制度です。
松阪市ではこれを救急外来の混雑緩和と不適切利用の抑制に活用しています。
◆ 対象外となるケース
- 入院が必要と判断された場合
- 医師が緊急性があると認めた場合
- 労災や交通事故、公費負担医療(生活保護など)の対象者
◆ 導入後の変化
制度導入からわずか3か月で、救急搬送件数が前年比で約20%減少したという報告もあり、一定の効果が出ているとされています。
■とはいえ、有料化が抱える“4つの懸念”
救急車の有料化には、多くの課題やリスクも伴います。
◆ 主な問題点
- 必要な人が費用を恐れて救急要請をためらう
- 高齢者・障がい者・生活困窮者の医療アクセスが低下
- 「軽症かどうか」の判断を現場隊員が迫られる
- 結果として命に関わるリスクが高まる可能性も
現場の救急隊は『命の選別』を担うわけにはいきません。
だからこそ、有料化には慎重で丁寧な制度設計が求められるのです。
■ 元救急隊員として伝えたい、あなたへのメッセージ
私は、十数年間にわたり救急の現場で活動してきました。
正直に言えば、「えっ、この程度で救急車!?」と感じた出動は数えきれないほどありました。
でも同じくらい、「もっと早く呼んでくれていれば助かったかもしれない…」という悔しい現場も数多く見てきました。
だからこそ、私は声を大にして伝えたいのです。
🚑 救急車は“命のリレー”のスタート地点。
その出動には限りがあります。
一人ひとりが本当に必要かどうかを考えて、使ってほしい。
■ 最後に:その119番が、誰かの命を左右するかもしれない
救急車の有料化は、もはや“机上の空論”ではありません。
三重県松阪市を皮切りに、今後は他の自治体でも同様の制度が導入される可能性があります。
そのとき、私たち一人ひとりの意識が問われます。
「これって本当に救急車を呼ぶべき?」
そう自問することが、救急医療の未来を守る第一歩になるのです。
そしてそれが、“今どこかで救急車を必要としている誰かの命”を救う行動につながるかもしれません。
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