「救急隊って手当がついて給料いいんでしょ?」
「夜中も働いてる分、稼げていいよね」
消防に勤めていた頃、何度も耳にした言葉です。
でも、その言葉の裏にある“現実”を知っている人はあまり多くありません。
たしかに、救急隊員は他の職種と比べて給与が少し高く見えることもあります。
しかし、それは『稼げている』からではなく、『寝る間も惜しんで働いている』からにほかなりません。
元救急隊員として、現場のリアルを少しだけお話させてください。
■ 出場1件=数百円の手当
救急隊に乗ると、出場ごとに「救急手当」が支給されます。
でも、その金額は1件あたり数百円。
昼夜問わず出場しても、手当自体はごくわずかです。
仮に、月に100件出場しても、手当は3万円前後。
消防は24時間勤務で月10当務ほどあるので、1当務あたり約10件の出場計算になります。
この「1日10件の出場」がいかにハードか、想像できますか?
軽症・重症に関係なく、搬送・対応・消毒・資器材整備・報告書作成…1件こなすのに1~2時間かかることもあります。それを10件。
しかも深夜に及ぶ出場もある。
これで得られる手当が数百円。
決して『稼げる仕事』とは言えません。
月に3万円も手当が上乗せされれば「最高」と思うかもしれませんが、そのために出場する件数がその対価に見合っているのでしょうか?
100件もの出場で得られるその金額を稼ぐために、どれだけの体力と精神力を削って働かなくてはいけないのか。
その現実をよく考えてみてください。
■ 救急の“稼ぎ”は「働いた結果」であって「楽して得たもの」ではない
給料が高くなる理由は、時間外手当や深夜勤務手当が加算されるから。
深夜1時、2時、3時…と続く出場によって、仮眠時間はどんどん削られていきます。
一度寝ても、出場ベルの音が響き渡り飛び起こされ、心臓がバクバク。
現場対応を終え、帰署後は消毒・記録・整備に追われ、やっと布団に戻っても次の出場が頭をよぎって眠れない。
仮眠2時間あっても、実際に眠れるのは10分ほどという日もありました。
この“寝ずに働いた時間”が加算されているから、結果的に『給料が多く見える』だけなのです。
■ 精神的負担も小さくない救急現場
救急隊の現場は、肉体的な疲労だけでなく、精神的なストレスもついてきます。
- 命に関わる傷病者との対面
- 感情があふれる家族や通報者の対応
- 理不尽なクレームや暴言への対処
- 感染症リスクや処置に対する重い責任
1件1件がプレッシャーの連続。
それでも冷静に、正確に、素早く判断しなければならない。
この重圧に耐えながら働いているのが救急隊員です。
■ それでも救急に乗る理由
では、なぜそんな大変な現場にあえて飛び込むのか?
それはやっぱり、命に関わる仕事がしたいという想いや、「ありがとう」と言ってもらえたときの達成感、仲間と共に出場を乗り越えることで生まれる絆があるからです。
お金では買えない“経験”と“やりがい”がそこにはあります。
■ 最後に伝えたいこと
救急隊は『稼げている』のではありません。
あなたが寝ている間に、何度も起きて働いているだけです。
わずかな手当と引き換えに、睡眠を削り心と体をすり減らして活動しています
だからこそ、「救急は稼げていいよな」という言葉を聞くと、胸の奥がチクリとするのです。
どうか、救急隊の働き方の“本当の姿”に、少しだけでも目を向けていただけたらと思います。
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