現場で傷病者情報を正確かつ迅速に整理することは、救急隊における最重要スキルのひとつです。
特に機関員の立場では運転だけでなく、情報の収集・整理・搬送連絡の作成と伝達という極めて大きな役割を担います。
私自身、機関員として多くの現場に携わる中で限られた時間の中でも落ち着いて情報を捌けるように工夫を重ねてきました。
今回はその中から、『効率的なメモの取り方』と『情報整理の実践方法』をご紹介します。
1. 自作メモ用紙の工夫 〜A4をA5にして常に同じフォーマット〜
私が使用していたのは、自作のA5サイズのメモ用紙。
これは、A4用紙に上下2つの同じフォーマットを印刷し、真ん中でカットすることでA5サイズとして使っていました。
この用紙はA5サイズのクリップボードに挟み、感染防止衣のポケットに入れて常に持ち歩いていたため、両手がふさがることなく、必要なタイミングでサッと取り出して記録ができました。
私の場合、機関員として活動していたため、左半分を時間経過の記録欄、右半分を傷病者情報の整理欄として使用していました。
この方式には、以下のような大きなメリットがあります。
- 右側に重要情報を集約することで、チーム内共有や搬送連絡が非常にスムーズ
- 時間の流れと傷病者の変化を視覚的に同時確認できる
- 現場到着から搬送までの経過を、正確に時系列で記録できる
右半分(傷病者情報)に記載していた項目は以下の通り:
- 氏名
- 生年月日
- バイタルサイン(意識レベル・呼吸・脈拍・血圧・瞳孔・体温・心電図モニター)
- 既往歴・服薬歴
- かかりつけ医の情報
- メモ欄(特記事項・現場の様子・気づいた点など)
特にこのメモ欄にはこだわり、現場で聞いたキーワード(ワード)をそのまま記録できるようスペースを広めに取りました。
▼なぜ「ワード」で書くのか?
文章で書くと時間がかかり、再確認のために傷病者や家族に何度も質問をする事態になりがちです。
それでは信頼関係を損ねることにもつながりかねません。
そのため私は、重要なワードだけを拾い、パズルのように組み合わせて搬送連絡用の文章を構成していました。
この方法は、情報を素早く頭の中で整理し、落ち着いた口頭報告にもつながります。
2. 効率的なメモ取り【機関員視点の3ポイント】
● 箇条書きで即整理
現場は一秒を争う状況。
情報は必ず箇条書きで記録し、あとで見返したときに瞬時に把握できるよう工夫していました。
特にバイタルについては、測定時間を明記する欄を設け、用紙の右上部など固定位置に記載していました。
これにより、容態の変化が一目でわかるようになります。
● 強調すべき情報は目立たせる
重篤な既往歴、アレルギー、使用薬剤などは赤ペンや囲み線などで強調。
搬送中や報告時に一目でわかるようにしておくことで、伝達ミスや確認漏れを防ぐことができます。
● 五感で得た印象も残す
バイタルだけでなく、以下のような直感的な印象もメモに残していました:
- 顔面蒼白・冷汗あり
- うつろな表情・受け答えに違和感
- 体位・呼吸状態・口調の変化
これらは、後に行う搬送連絡の説得力を高める材料となり、医療機関にも重要な情報として伝わります。
3. メモが活きた現場エピソード
● 搬送中の急変時に冷静な判断が可能に
出発時に記録していたバイタルや傷病者の様子があったことで、搬送中に状態が変化した際も『いつ・何がどう変わったのか』を明確に認識でき、適切な処置や判断につなげることができました。
● チーム内連携の質が上がる
機関員としてメモをもとに短時間で隊長や隊員へ情報共有することで、隊全体の対応がスムーズになり結果的に傷病者への負担軽減や迅速な処置に貢献できました。
また、搬送連絡を行う際の構成材料としても非常に有効で、医療機関との連携も格段にスムーズになりました。
4. まとめ:機関員こそ「情報の司令塔」であれ
現場での正確な情報整理・伝達能力は、単なる運転を担うだけではなく、チーム全体を支える“司令塔”としての機関員にとって欠かせないスキルです。
限られた時間と状況の中で、いかに情報を掴み、活かすか。
それは隊全体の対応力を左右し、傷病者の運命をも変える可能性すらあります。
ぜひ、今回ご紹介した方法をベースに、「自分なりのやり方」を見つけてみてください。
そして、どんな現場でも落ち着いて正確に、冷静に対応できる機関員を目指しましょう!
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